パソコンと古文書解読

第8話 変体仮名と外字

 

原稿用紙に古文書を書き写しているぶんには少しも気にならないのに、日頃、古文書をパソコンで入力している私にとって困るのは、助詞の「(は)」などの小活字です。このような慣習?は、面倒な処理を必要とすることもあって、「なぜこれらの文字だけを特別扱いするのか……」、とブツブツいいながらも、一応はそれに従っています。それにしても不思議な困った慣習です。

近世古文書の解読文の表記について、たいてい次の文言があります。

変体がなは、原則としてひらがなに改めたが助詞に用いられている而(て)・江(え)・者(は)・茂(も)・与(と)・斗(と)而已(のみ)は小活字で示した。(『広島県史』近世資料編の凡例)

「小人類之者木履・下駄・雪駄・指笠無用之事」

この文章をWebページ用に作るには、「者」のサイズを小さくして「」にすればできますが、助詞の「者」をいちいち探してサイズを変更するので、少々面倒です。
ワープロでも同様に小活字に変更して、「ベース位置」を右に寄せます。
この作業が面倒なので、「者」の活字の横幅を2/3にした細長い「者」を外字で作り、自分用に使います。印刷しても一応それらしく見えます。

しかし、メールでは、小活字が使えません。もちろん、外字も使えません。「小人類之者者……」とするしかありませんが、「……者(……者は)」ではどうもシックリしません。

いっそのこと、「(は)」は止めて、「小人類之者……」としたらどうでしょうか。
変体がなは、原則としてひらがなに改め……」るのなら、いっそのこと、「変体がなは、すべてひらがなに改める」とすれば、小活字で悩むこともないし、入力に面倒がることもないし、古文書に慣れていない人でもすぐ理解できる。素人考えでは、いいことずくめだと思いますが……。

手書きの古文書を見ると、たしかに、而(て)・江(え)・者(は)・茂(も)・与(と)・斗(と)而已(のみ)は小活字を右寄せして書いてあり、またよく使われています。しかし、「かな」はこれだけではありません。「は」の「かな」でいうと、誰でも知っている「は(波)」や、問題の「(者)」以外に「(盤)」なども使われています。(この変態がなは「今昔文字鏡」でないと表示できません。)

沢山の字体が使われていた「平仮名」が、明治33年(1900)の小学校令施行規則で、「は」1字に限られ、それ以外を「変体仮名」という何か誤解されそうな名前にされて退けられ、現在では「は」だけが完全に定着しました。(もう勝負はついています)

それなのに、「助詞に限って一部の変体仮名を使用する」理由が理解できません。

ただ、「」(え)については、「え」ではなく「」にするのが適当と思います。
ふつう「御代官所差出候事」と表記するところを、「御代官所差出候事」と書かれた文例は数多く見られるのに、「代官所……」と書いたものは1例しか私は見ていません。

「かな」だけでなく、「」などの合字も「より」とかなで表すようになると助かります。古文書を習い始めた頃、初めてこの文字を見て驚きましたが、“種明し”されてみると何でもないことで、解読文に「」を使うのは、“素人”を脅すために使っているとしか考えられません。

」について、私は「者」の横幅を縮めた外字をしかたなく使っています。印刷しても一応小活字に見えるからです。
しかし、外に出すときは、その外字を[者]に置き換えコメントをつけます。
ワープロで小活字を使うには、外字を「$者」に置換して、「一太郎」に渡します。

「一太郎」では、「編集」→「置換」画面で「置換の方法」を「文字→装飾」に指定し、「検索」欄に「$者」を入れ、「飾り設定」画面で「文字サイズ」を小さくし、「ベース位置からのシフト量」を「20」に指定して「OK」し、一括して置換を実行します。すると、「$者」は「$者」に変ります。次に、余分な「$」を削除します。これも「置換」を使います。「置換の方法」を「文字→文字」とし、「検索」欄は「$」、「置換」欄は「」(なし)として一括して置換を実行します。(「$」は古文書では絶対に使わない文字です。だから安心して削除できます)。

外字を作るのは割合簡単です。 「スタート」→「プログラム」→「アクセサリ」→「外字エディタ」を起動させます。すると「コードの選択」画面が出ます。最初のF040番を指定して「OK」すると、「編集画面」に変ります。「編集」→「文字のコピー」を指定すると、「文字のコピー」画面が出ます。まず、「フォント」ボタンを押し「MS明朝」のフォントを指定します。「形」の中にカーソルを移し、Atokを起動させ、「者」を入力して、「OK」すると、「編集画面」に大きく「者」が出てきます。「四角形選択」をポイントしてカーソルを左上から右下までドラッグして全画面を範囲指定すると、指定した範囲の左辺中央に点が出来ます。ここにポインターを近づけると、左右に出た矢印に変わります。そこで右に6目盛ほどドラッグしてマウスボタンを放すと、見事、右寄り・縦長の小活字「」ができました。これを保存するには「編集」→「同じコードで保存」すれば完成です。次の文字は、その隣の「コードの選択」をします。

  

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