パソコンと古文書解読

第22話 利率の表記

 

古文書の解読には江戸時代の「常識」が不可欠であることを強調しました。ここでは、利率を例として、「常識」についてお話しします。

次の資料は、武士が農民から借金をするという、面白いものです。

        沼田郡大町村御給主様借替銀様子申上書附

      覚            沼田郡大町村
一銀四百目  □□助九郎様先納御立用銀 給役人久蔵借替
  但シ、午ノ暮御証文ニ御立用利足月一歩半
一同六百目                      樽屋喜兵衛取次
一同五百目                      右同断
 〆
但シ、午霜月御証文庄屋直三郎・給役人久蔵共引請加印ニ御立用、利足月壱歩弐朱[借受]、右三口とも元利御返済被下様給役人より御催促仕候へ共、此砌元利払切之取計難出来候間、今暫猶予之取引致呉候様御支配方より被仰聞候、尤去未年分利足御払、元銀居貸ニ相成申候
 〆
当村給主様給役人共より御立用銀等、右之通ニ御座候処、年々利払而已ニて元入無御座、給役人共手元大ニ差閊甚迷惑仕候間、何卒御慈悲を以御振替等被成遣候ハヽ、給役人共勿論、於私共ニも難有可奉存候、則証文写シ懸御目申候、為其相約メ候趣此書附を以御願申上候、以上
[文化九年]申四月                 庄屋直三郎
                            与頭惣四郎
 与合割庄屋文左衛門殿

大町村に領地を持つ□□助九郎は、文化七年の暮、領地の農民から、来年の年貢納入時に返済する積りで借金(先納御立用銀)をしましたが、一年以上経過しても、利足分だけしか払うことができませんでした。農民が催促すると、「此砌元利払切之取計難出来候間、今暫猶予之取引致呉候様」と頼む始末……。困った農民は割庄屋に肩代りを依頼しました。

ここで問題にするのは、その利率の表記です。「御立用利足月一歩半」と書いてあります。「分(歩)」とは普通、「五分通り済んだ」のように、1/10を示します。すると、月率15%、年利180%(15%×12月として)のとんでもない高利となります。どうも解釈の誤りのようです。「利足月壱歩弐朱」の記述まで出てくると、ますます混乱してきます。

そこで、利足の勉強です。「世界大百科事典」で検索すると、……ありました。

利子は〈世上金銀貸借利足之儀,是迄壱割半之処,以来金廿五両に付壱分之利足に引下げ……〉と年利,すなわち1ヵ年に支払われる利子総額の元金に対する割合,または元金25両に対する1月分の利子額をもって示すことが多かった。〈是迄壱割半之処〉とあるのは年利1割5分ということであり,〈廿五両に付壱分〉とは25両につき月金1分,すなわち100両につき月利金1両,換言すれば年利率1割2分ということである。(世界大百科事典)

利率の表記には2種類あり、この文書では後者、つまり金25両の利足額が月に1.5分(=1分2朱)に当ると解釈すべきでした。すなわち、金25両(4分×25両=100分)の元金に対して、月1.5分の利息額は、月利率にすると、1.5/100=1.5%、年利率18%(1.5%×12月として)になります。これなら、まず当時としては順当な利率になります。

資料の中に、「金弐拾五両ニ付」とか、「壱分弐朱」の文言があれば、誤解をしないで済んだものを……と思いますが、そこが「常識」、書かなくても当時の人には分ったのでしょう。

「金25両」という半端な金額を基準にする理由は、「分」に換算すると25両は100分になるので、理にかなった基準だと思われます。また月利で示すのも、閏年(13月)がたびたびやってくる当時の暦では当然のことでしょう。

古文書から利率表記を探すと、次のような用例が見つかりました。( )は年利率、12月として。

最後の用例「七朱之利足」は、上記の2つの利率表記とは異なります。
金25両(100分)に対して、年に7朱(1.75分)の利足とすれば、年利1.75%となり、あまりにも低利です。(月利なら納得できますが……)。
銀31貫目の元銀に対して、年に7朱の利足と解釈すれば、さらに「超」低金利となります。
いったいどのように理解したらよいのでしょうか……と疑問を呈していたところ、井上正紀さんから回答をいただきました。

小泉袈裟勝「単位の歴史辞典」で調べてみると、「」を利率の名目として使うときは、@ 1割の10分の1(分=0.01)を示す。または、A1分の10分の1(厘=0.001)を示すこともある。

すると「年七朱之利足」は、@を当てはめると、年利0.07(7%)となります。Aは低金利過ぎて当てはまりません。

 

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